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日々の破片

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2015-04-09

_ 翻訳文学こそ電子書籍にふさわしい

iTunesを利用するようになって何が良かったかについて、以前、友人と話したことがある。オーディオに相当額を投資していて、とんでもなく大音量でクラシックを聴く生活をしている男である。さすがにLANケーブルについては投資はしていないようだが、USBケーブルは投資していて、あまりの太さに仰天した。

面倒だが、ここまでやったぜ、と彼が言いながら、iTunesを開く。

曲でソートすると、何をやったかがわかった。

トラックがちゃんと切れているものについて、すべて曲名を合わせてあるのだ。

なんのことを書いているか、オペラを聴かない人には理解できないだろう。

たとえば、おれは面倒だから基本的に(あまりにひどい結果が戻った場合や、CDDBになくて自分で登録する状況になった場合は別だ)iTunesが設定したトラック名をそのまま利用する。

結果として、たとえばワグナーのトリスタンとイゾルデ第3幕の愛の死は、以下のようになっている(aの上のトレマのドイツ語版は省略している)。

・Mild Und Leise, Wie Er Lachelt(フルトヴェングラーがウィーンシュターツオパーを振ったCD)

・Wagner: Tristan Und Isolde - Act 3: Mild Und Leise Wie Er Lac...(長すぎて表示しきれていない)(ショルティがウィーンフィルを振ったやつ。というか実際は上のフルトヴェングラーと同じ(ウィーンシュターツオパーが録音やコンサートするときにウィーンフィルを名乗る)

Tristan Und Isolde(R. Wagner)

ニルソン&ショルティ時代の大名演だと思う。が、別に聴く必要をあまり感じない(ならリングを聴く)

・Wagner:Tristan Und Isolde, Mild und leise (カラヤンがベルリンフィルを振ったCD)

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」全曲(ワーグナー/カラヤン(ヘルベルト・フォン)/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/デルネシュ(ヘルガ)/ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団/ルートビッヒ(クリスタ)/ヴィッカース(ジョン))

美しい。気楽に聴くには一番好きだ。

・”Mild Und wie er lachtet" (クライバーがドレスデンシュターツカペルを振ったCD)最初のと異なりダブルクォーテーションがついている

Trstan Und Isolde(Dietrich Fischer-Dieskau/Wolfgang Hellmich/Richard Wagner/Carlos Kleiber/Brigitte Fassbaender/Leipzig Radio Chorus/Staatskapelle Dresden/Margaret Price/Anton Dermota/Eberhard Büchner/René Kollo/Werner Götz)

(レオンタンプライスは悪くないし、コロとディスカウは超一流で、クライバーは無比の存在だが、あまり好みでは無いので、前奏曲以外はほとんど聴かない)

・Tristan und Isolde, Act III:Mild und leise wie er lacht(ボダンツキーがメトを振ったCD)

Tristan und Isolde(Artur Bodanzky)

音は最悪だが、フラグスタート全盛とはこれかとわかる(最高音でのシュヴァルツコフの吹き替えなどの逸話もある晩年のフィルハーモニア盤よりこちらのほうが張りがあるのがわかる)。5:35からの素晴らしさ。一番好きかも。しかし音が悪い。

要するに、てんでバラバラだ。っていうかいちいちトラック名にWagner:とか付けるなよと思う。

ところが、友人は、こういったばらばらな結果をすべてMild und Leise, Wie Er Lacheltに統一しているのだ。

結果として何ができるかというと、曲名でソートすると、簡単に聴き比べられる!(それこそが、クラシックの楽しみなのだ。時代によって大きく演奏スタイルが変わり、しかしその中にあって傑出した音楽家は独自の演奏を行い、同じ指揮者でも歌手やオーケストラによって変わり、時期によって変わり、同じ歌手が指揮者によって変わり、時期によって変わり、(目に見えないが)演出によって変わる)

(ちなみに、友人のところにカラヤンは無いかわりに、ベームがあるし、フルトヴェングラーがさらに多い)

おれのiTunesとはえらい違いだ。アルバム名ですら、Tristan Und Isolde [Disc3]という表記やら、Wagner: Tristan Und Isolde (3)やら、ばらばらである。

では、聴き比べるかと、シエピのドンジョヴァンニがどれほど比類ないかについて延々とLa ci darem la manoを聴かされることになった(もしかすると、どれだけステファーノが素晴らしいか延々と女心の唄の聴き比べになったのかも。ちなみに、この聴き比べの結果、おれの中でマリオデルモナコの評価は地に落ちた(アンドレアシェニエは未だに最高だけど))。

これ、本当に良い時代になったもんだ。だってLPのときはできなかったからなぁとしみじみと言う。針あげて、盤をターンテーブルから取り出してジャケットにしまって、別の盤をジャケットから取り出して拭いて(LPは直接針が乗るので拭く必要がある。拭かないと塵を針が轢いておそろしいことになるのだ)ターンテーブルに乗せて、針を乗せて(トラックの途中に進めるのでここに微妙な加減が必要)、やってらんないから、やれなかった。CDになって、拭く必要もなければ、トラックの先頭にはすぐに進められるようになったけど、それでも盤の取り替えは面倒くさい。そもそもリングを聴こうと思ったら、LPなら30枚以上(両面だよ)、CDだって15枚くらいある。

それが見て見ろ、今は、クリック一発だ。本当に素晴らしい!

というやり取りを新訳でびっくり。カフカ『変身』の主人公は、本当に「毒虫」に変身したのかを読んでいて思い出した。

そういえば、おれは悪霊が好きで、図書館でいろいろ読み比べたことがある。

結果として、江川卓が一番好みだと言うことがわかった。

悪霊 (上巻) (新潮文庫)(ドストエフスキー/江川 卓)

というか、もともと江川訳でステパン氏(ネチャーエフの役回りのドミトリ(だと思ったがさすがにスタヴローギンとステパン氏以外の名前は忘れている。でもキーロフはキーロフだな)の父親で確か大学教授(インテリ)なので心情左翼ではあるけれど、暴力革命を支持することはできないため若者たちの前でおろおろする損で滑稽な役回り)について、とぼとぼ歩く愚かしい姿があった、というような描写があって実に言い回しの妙に感心して、他の訳者ではどうなっているか読み比べたのであった(が、思い出そうとしても全然覚えてないや)。

あとは、日々の泡についての読み比べとか。

最初に曽根訳を読んでえらく感じ入った(高校の図書館でだ)。あまりに気に入ったので買おうと思ったがそのときにはどこにも売っていなかった。

日々の泡 (新潮文庫)(ボリス ヴィアン/Boris Vian/曽根 元吉)

(再刊されてよかったね)

しばらくすると、なぜか早川が全集を出したので当然、買いそろえた。

うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)(ボリス ヴィアン/Boris Vian/伊東 守男)

が、おかしい。スケートリンクのところが文章の体を呈していない。もっと普通だったようなのにおかしいなぁ。

で、さらにしばらくしてアテネの教材に使われたので読んだ。

L'Écume des jours (French Edition)(Boris Vian)

(持っていた10/18のやつはないみたいだし、手元にも見当たらないが、Kindleで300円台なら買っちまおうかな。しかし今も読めるんだろうか?)

やっぱり伊東守男訳はおかしいじゃん。ってことは、こんなに楽しめているアンダンのトラブル(一番好き)も実はバグなのか?

ボリス・ヴィアン全集 1(ボリス・ヴィアン/伊東 守男)

(で、これも10/18で買ったのだが(こっちは手元に残っている)、先生無しでは読めないことがわかって、翻訳とか先生とかのありがたさを知るのであった)

で、こういったことをiTunesのオペラ聴き比べみたいにやりたいわけだよなぁ。

カフカのやつも冒頭の比較だけど、もっとここぞという個所(悪霊だとステパン氏がとぼとぼ歩くところ)でやりたくても、頭出しが面倒過ぎる。もっと、それをピシッとやりたいものだ。今の電子書籍はそこまで進んでいないけど、それでも紙の本よりはましな可能性がある。問題は、読み比べたいものは白水社とかなんだよな。(でもシェイクスピアの読み比べはちょっとやったのを思い出したけど、Kindleでは本よりも遅すぎて話にならなかった)


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