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日々の破片

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2015-04-06

_ ユーロスペースでラブバトルと神々のたそがれ

最後に観たのが今は亡きシネパトスでシャルロットゲンズブールがカナダへ行く映画(題名忘れた)なので、えらく久しぶりのドワイヨン。例によって事前知識なしで行く。

映画が始まると何本か予告編があって、ゴリウォーグのケークウォークが鳴ってラブバトルの予告編。どうやら普遍的な愛を描いたとドワイヨンが語っている。というか、なぜ予告編? と思う間もなく美術館の映画が始まって、暗転。フィルムを差し換えてやり直し。これまた随分久しぶりの映写技師のミスであった。

映画が始まるとサングラスにスカートの若い女が脚を出して田舎道をさっそうと歩いている。岡崎京子っぽいなぁと、ドワイヨンがばんばん公開されていた当時を思い出す。

ひげの中年男が納屋みたいな小屋の壁材を手でこねている。列車の音。列車が通り過ぎる全景、列車を遠くに配してまた中年男。

という情景で始まる。

父親が死んだので遺産の取り合いをするために田舎へ来た女だということがわかる。数年か数か月前に男と因縁があったらしいことが語られる。会話に次ぐ会話で、そうそうドワイヨンというのは会話する作家だと思い出した。それも妙な。ロメールのように洒脱な感じがなくてひたすらべったりと会話を舐めまわして心理描写をしていくのだ。

主軸は3本あって、女は父親から愛されていなかったと感じていて、しかし唯一の愛情の徴としてピアノだけがある。父親からピアノを教わったのだ。すぐにやめてしまったが(途中ゴリウォーグのケークウォークをものすごく下手に弾いている)。だからピアノを相続したい。形見として。しかし姉と兄は、ピアノだけが唯一の換金性遺産ということで狙っている。1000ユーロと調律師は鑑定する。きっとその倍はするはずよ、と姉は言う。

女と男は微妙な関係で、お互いにセックスしたいのだが、男は女が妙なのであまりその気でもない。女は良くわからない。結局、二人はlutte(英語ではfightと辞書にはある。バトルというのとは少し違う。喧嘩というか格闘だな。現代はLa seances de lutteだから闘争の情景で、最初のところで女が、ピアノを弾けるのか? という男の問いに、ショパン、でも今の気分はシューマンと答えることや、弾くのが子供の領分だということから子供の情景とかけて格闘の情景ということなのだと思う。全然ラブバトルじゃない)する。男は手加減するが、女は本気の股間蹴りを炸裂させたりして危険極まりない。

毎日女は男を訪れる。最初はサングラスでタトゥーも目立つ(が後のほうではタトゥーがなくなるので単なるシールなのだろうし、それが暗示するように悪ぶっているが全然子供なのだった)、次はGジャン、だんだん服が軽やかになり露出が増える、ノーブラの乳首が目立つようになる。結局することはする。することはするが格闘も続く。

ピアノは兄にほぼ取られてしまう。カメラを盗んだりすることで家族の中の厄介者という立場が明らかになる。

格闘してすることして女は泣き出す。父は私にピアノをくれるといったのに、姉や兄にも言っていた。やれやれやっぱり父親代わりか、と男はうんざりするのだが、それだけとも言い難い。

そうそう、ドワイヨンの映画に出てくる女性はみな病んでいるのだった。ラピラートも、家族生活のジュリエットビノシェ(従妹という役回りだったような)、女の戦いのベアトリスダルとイザベルユペールも、みんなそうだ。ポネットちゃんだって母親を亡くしたばかりでそれを理解できていない子供という設定があるから可哀想ですむがなんかおかしいし、カナダへ追っかけるのもそうだ。

服が少しずつ変わるように、することも、最初は森の中の水溜りで、壁材をこねくり回す納屋の泥の中で、台所の物が乗っかった机と、徐々にまともな方向へ進む。

最後はベッドになる。途中、逃げ出してバスタブの中に隠れて、そこではじめて愛していると言う。が、ベッドに戻ったところでまた格闘が始まり本気の首絞めを決める。男激怒して投げ飛ばす。むちゃくちゃだ。

とにかく狭くて物がいろいろ置いてあるところで格闘するので、怪我しそうなものだが、ちゃんと振り付けているのか、破綻がない。破綻がないといえば、半分格闘しながらセックスしているのに、ちゃんと一線が守られているので、そこもきちんと振付けているのは間違いない。常に構図と身体の動きがきれいにおさまっている。ドワイヨンは偏執的な演出で、異常な心理状態にある人間を描く作家なのだった(ああ、そうか。この作品の場合、女はあまりにやんでれっぽいが、ことセックスがしたいということに関しては男も女も少しも異常な心理状態とは言えないから、普遍的な愛とドワイヨンは豪語しているのだな。変なやつだなぁ)。3回目か4回目の訪問では、女の戦いをほうふつさせる首から上の顔のドアップの切り替えしで会話を行う。

それにしてもどこが普遍的な愛を描いた映画だと予告編を思い出して笑いそうになる。

素晴らしい傑作だった。本当に良い作家だ。

で、ゲルマンの神々のたそがれ。3時間ときいてびびる。が、どこに3時間を使ったのか? と観終って驚くほど凝縮度が高い映画だ。気づくと終わっていた。これまた普通の作家ではないのだ(おれはたまたま日本海映画の試写券を友人にもらったので我が友イワンラプシンから観ることができたが、常にくっきりした輪郭を持った画(白黒フィルムだから可能なことかも知れない)が作られていて、なんだこの作家はと思ったのを覚えているというか、電信柱がある犯人が逃げた丘の手前の道や、兵士を載せて通り過ぎる貨車とか、部分部分の映像を覚えている。同じように車も、雪の街路の向うの壁であるとか、ベリアの風呂(本当の記憶かな?)や、列車の一群などの画が記憶にある。今回のもいくつもの画が記憶されている)。緻密なまでに緻密に小道具を配してまったくあり得ない話を徹底的にリアリズムで作る。

最後の開放感(メガネをかけ小ざっぱりとして登場)が、車を! を思い出させた。が、車を! は最後まで仲間たちと楽しく列車の旅をするが、こちらはいささか様子が異なる。

世界SF全集〈第24巻〉ゴール.グロモワ.ストルガツキー兄弟 (1970年)

こんなおもしろいのなら、原作(神様はつらい)も読んでおけばよかった(持っているのに読まなかった作品の1つで、今は倉庫に入っている。今度取り出して読もう)


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