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日々の破片

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2021-06-04

_ 王の没落

王の没落読了。Twitterで岩波のツイートを見ておもしろそうだからすぐ買ったが、結局先週から読み始めた。

デンマーク文学で、1900年あたりに書かれた20世紀デンマークの代表的な小説らしい。全3部構成で、歴史的にはクリスチャン1世治下、クリスチャン2世のスェーデン占領、クリスチャン2世幽閉後に分かれている。1部では20代(10代後半かも)だった主人公が2部では40代くらいとなり、3部では60〜70代となっている。

読むのに一番時間がかかったのは1部で1週間くらいかけて読んだ。実際情報量(人物、事柄、イベント)も1部が一番多く、2部、3部と少なくなっていく(その代わりに幻想が増えてくる。おそらく主人公が動けなくなるからだろう)。結局3部は半日で読了してしまった。

主人公は1部では大学生として学んでいるがまじめに勉強するよりも市外で農民から食事をおごってもらうことがほとんどだ。

そこに軍隊がやってくる。軍隊には主人公の故郷での領主の息子がいて、同郷ということもあって行動を共にするが違和感を常に持つ。

ニワトコがある家の角の石に落書きがあり、その家に住む女性に恋している。

ニワトコという言葉を見て子供のころ読んだアンデルセンのニワトコおばさんを思い出した。デンマークではニワトコは愛されているようだ。日本の桜に相当するのかも知れない。

主人公は酒場でクリスチャン2世(この時点では王子)を見て美しさに感動する。

主人公は放校され故郷へ帰りそこで領主の息子の婚約者を誘拐する。傭兵として出兵する。

2部では王の直属の軍人となる。デンマーク軍の占領下のストックホルムで知り合った若い騎士(実は1部で出てきた領主の息子の知られざる息子)が持つ、ヘブライ語で書かれた宝について書かれた文書に興味を持つ。もとは大学生でラテン語もヘブライ語も学んだことがあるのだが、その学問の成果をまったく活かすこともできない生活を続けていたので、翻訳してみせることですでに失って(あるいは最初から持ち合わせていない)誇りを取り戻したい。しかし、騎士はその欲望にまったく気づかない。騎士の元に港に停泊した享楽船から娼婦が訪問する。

街ではクリスチャン2世によって広場が血で溢れる。

主人公は高熱を出して死を予感する。そして最後の希望として騎士へ読ませてくれと頼む。騎士は病気が悪くなることを恐れて断る。

主人公は騎士に対して殺意を抱き、そして回復する。

騎士はそこら中で女性と婚約したり結婚したりしては旅立つという猫のような生活を送り、最後は主人公の故郷で主人公の娘(だが主人公はそれを知らない)と婚約する。

やってきた主人公を騎士は歓待し、二人は出かけ、そこで主人公は復讐を遂げる。が、文書が収まっているはずの箱は空だった。

3部になっても主人公はまったく満たされることはない。巡礼の姿をして弟の元を訪れる。農民たちによるクリスチャン2世奪還作戦が行われ、ドイツから来た現政府軍によって農民たちは弟を含め虐殺される。

主人公は王の側近として一緒に幽閉生活に入る。

主人公はイタリアで仕入れた地動説を王に話す。王は認めない。

そこで王は、主人公を智者のもとへ天動説と地動説のいずれが正しいかを聞きに行かせる。入れ違いに主人公の孫(騎士の子供)が親代わりの楽師とともに城(王の幽閉先)を訪れる。

博士は主人公にヘブライ語の文書は娼婦が持ち出し、さらに何人かの手に移り、換金されたことを告げる。

博士のもとには王の隠し子のカルロスがいる。彼は頭蓋骨を持たず、巨大な脳を使って森羅万象を知ることができる。博士に頼まれ、カルロスは天動説と地動説のいずれが正しいか考え始める。

高熱を出した主人公がカルロスについてうわ言で漏らしたために、博士とカルロスは捕縛され、窒息できないようによく考慮した積まれ方をした薪によって火刑になる。

主人公は王の元へ帰り、病気で死ぬ。

この作品では主人公は徹底的に空疎な人間として描かれている。何一つ希望したことをかなえることも、そもそもかなえさせようと行動することもなく(留学資格を得るために口頭試問に赴いたことはある。また王の側近として仕えられるように依頼したこともあるので、何一つ希望というのは違うような気もするが欲望のレベルが異なるのだ)一人合点で恨みだけを溜め込み(しかし機会があれば放出する)何もなさないままで死ぬ。物語として書かれた会話シーンでも主人公は黙している。一方書かれていないところでは王と会話している。

王もなにかいろいろやろうとしたが理解を正しく得ようとせず、決断を先延ばしし、唐突に血の雨を降らせ、無為に死ぬ。

その点において主人公と王は同じ物語を紡いでいる。

しかもその意志とまったく無関係に子どもたちが孫たちを生み出して絡み合う。

要は歴史なのだった。

読後のカタルシスはないが、澱のようなものが余韻として溜まる、たしかに20世紀的な文学作品だった。

デンマーク語はまったくわからないわけだが、にもかかわらず訳業は偉業のように思う。心理描写のかわりに大量に含まれる風景描写が強い印象を持つ。

王の没落 (岩波文庫 赤 746-1)(イェンセン)

・ろくに勉強しない学生が農村などで歓待されるというのは、ゴーゴリのヴィーに出てくる学生を思い出した。そういう習慣があったのだな。

では日本は? と考えると、それが修行僧に相当するのかと考え付く。寺が大学なのか。

・何か同じように空疎で行動しない寡黙な主人公の物語を読んだ記憶があるのだが、なんだったか。


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