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日々の破片

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2019-07-27

_ オン・ザ・タウン

子供におごってもらって東京文化会館でオン・ザ・タウン。

文化会館についたら、オペラの客層なので、ミュージカルと聞いていただけにえらく戸惑う。芸大ホールの間違いか?

でもチケットを見ると間違いない。で、よくみるとバーンスタインの作品で佐渡裕が手兵の兵庫芸術文化センター管弦楽団を振る舞台で、なるほど、作品はミュージカルだが舞台としてはオペラのコンテキストなのかと納得する。それにしても本当に客層が分断されているな。

で、子供からは(バーンスタインどころか)3人の水兵が町に1日限りの休暇を過ごす話らしいとしか聞かされていず、3人の水兵といえばニューヨークニューヨークだよなぁと聞くと、でもニューヨークじゃないと思うよ、だってタウンだしと言われて全然違う作品だと思っていたのだった。そのときはIt's a wonderful town! と続くのをころりと忘れていたというのもあるけど。そもそもあのミュージカル映画の音楽がバーンスタインだということも知らなかった。(オン・ザ・タウンを観ている間はwonderful townじゃなくてヘル言っているみたいだと思って今調べたらit's a helluva town! (反語表現)となっていて映画ではコードにしたがって変えたのだった)

で、これが発見に満ち溢れたすごくおもしろい舞台だった。まず指揮と演奏が抜群で、キャンディードなんかではまったく気が付かなかったが、どえらくガーシュウィンの影響があるジャージーな音楽のオーケストレーションで、ということはリズムやソロにアドリブ臭さが混じるのだがそれが実に自然で今まさに演奏しているとは信じがたい。

プログラム(えらく立派なものがチケット代に含まれてついてくる)を読むと、映画化にあたってはプロデューサーがバーンスタインの音楽はあまりに前衛的だから映画の観客には通用しないだろうとほとんど差し替えまくったとかある。

が、聞く限り、これがだめなら巴里の亜米利加人とかあり得ないだろうと不思議になる。逆に言うと、そのくらいガーシュウィンっぽいのだが、踊る大紐育が1949年、同じドーネン・ケリーでも巴里の亜米利加人は1951年だからその間に観客も進化したのか(あり得ないな)、歌手のシナトラがいなくなったので歌を使う必要がなくなったからかな。

ただ、今、映画の年代が1949年ということでちょっと理解した。

原作は1944年だし、どうみても一番重要なテーマはおそらく主人公のゲイビー(映画ではジーン・ケリー)のゲイビーが町にやって来たと、寂しい街(誰も僕を気にしない)と僕が僕で良かった(と幸福な気持ちで恋人を待つが期待は裏切られる)だからだ。もちろん寂しくなくなってあわただしく終わるわけだが。

物語はニューヨークに停泊した戦艦から24時間の休暇を与えられた水兵が町に飛び出す。

そのうち3人組、ゲイビー、チップ、オジーの話となる。地下鉄に乗って移動中だ。チップは父親からもらったガイドブックにしたがって名所を見ようとする(実はすべてが古い……劇場は廃業していたり最高峰は40 ウォール・ストリートかクライスラーだろうが、クライスラーとは言っていなかったように思う……とか)。オジーはとにかくナンパするか夜の町で女性を買うことしか頭にない。ゲイビーはもやもやしている。そこに、地下鉄のプロモーションのために毎月乗客から若い女性をポスター化するという今ではないよなぁ、良い時代になったよなぁと思わせるようなミス改札口の最新のポスター(アイビー・スミス)を車掌が貼りに来る。一目見てアイビーをゲイビーは気に入ってしまう。なんと刹那的、でもそれがテーマだとはね。

熱い男のオジーは、いやがるチップを説き伏せて、ゲイビーを彼女とデートさせることを目標とする。

と決まると、ガイドブック野郎のチップは計画力があるので、3人で調査するための場所の分担と集合時刻を決めてさっそく3手に分かれて行動が始まる。

最初に地下鉄局への問い合わせを担当したチップは、居眠りしていたためにタクシー会社をクビになったブリュンヒルデ・エスタハージ(ニレジハージみたいな名前だからハンガリーで、名前がドイツだなとか思ったので印象深い)と出会う。ブリュンヒルデはチップに一目惚れして嫌がる彼を家に連れて帰る。そこにはルームシェアしているルーシーという風邪ひきの女性がいる。本来は昼夜交代で部屋を使うはずが風邪ひいて仕事を休んでずっと家にいるのだ(というのが居眠りしてクビになるのはこれの伏線だったのか)。ここでブリュンヒルデはわたしは料理が得意という素敵な歌を歌のだが、待て、シチュエーションといい、曲想といい、詞といい、赤い波止場で中原早苗が歌う私は料理がとっても上手(日本映画の女性が踊るシーンの中でもっとも歌も踊りも女優も好きなので忘れようがない)の元ネタか、これ?

一方、美術館が趣味と書いてあったので美術館担当のオジーは間違えて自然科学博物館に行き、そこで人類学者のクレール・ド・リューヌ(なぜ月の光とこれまた印象に残る妙な名前)と恋に落ちる。クレアの家に行くと婚約者のピアースという世界でももっとも物分かりの良い男が待っている。

カーネギーホールでレッスンを受けているというような情報を頼りにカーネギーホールを探すゲイビーだが、Carnegie Hall を読めない(おれだけかと思ったらアメリカ人でも読めないのだな)ので何か違う(覚えてない)呼び方をするため誰からも相手にされずに、寂しい歌を歌う。そこはミュージカル、いつの間にか踊りの渦が巻き起こり、カーネギーホールのレッスン場でアイビーと出会い、デートの約束を取り付ける。万歳。アイビーとゲイビーで韻を踏んで、スミスは一番多いアメリカ人の名字ってことかな? というか、彼女だけ他の二人と名前が違い過ぎる。探すのが無理な名前という設定なのかも。

一方彼女はミス改札口に書いてあるプロフィールと異なり、コニーアイランドのベリーダンサーで、ブロードウェイに出ることを夢見てレッスンを受けている(のだと思うが、カーネギーホールってどういう仕組みかさっぱりわからんな。グリーンブックではドクターはカーネギーホールに住んでいたし、同様に音楽家が住居を与えられていて、中には個人レッスンを自宅で行う人もいるということなのか?)

で、2幕になると爆笑を誘う大仕掛けがみんなで遊びに行くナイトクラブ3交代で巻き起こるのだが、2つ目か3つ目で、ああ、この物語はそういう意味なのか、とはじめて理解した。もっと普通は早くわかるのかも知れないが、踊る大紐育の能天気な印象が強すぎてわからなかったが1944年ってノルマンディー上陸の年じゃないか。

多分、2個めのキャバレーでゲイビーの心を沈ませる歌を引っ込めるためにブリュンヒルデが、ここにいるのは水兵さんで今日が最後の休暇なんだ! というようなことをいうと店のものから客まで全員が拍手喝采して水兵さんのために! というような感じとなる。なぜそこまで歓待するんだ? と疑問になって、あ、ノルマンディーへ行くことになるからかと理解した。

とするとドイツハンガリーフランスの名前もそのあたりを掛けているのかな。

いずれのナイトクラブでも支払いは世界で一番物分かりの良い婚約者にクレールが押し付けるというお笑いをかませるのでついに婚約者は物分かりの悪い男になる宣言をして、ブリュンヒルデのルームメイト(彼女もなんとなく物分かりの良い女性を押し付けられている)と一緒に全員を捕まえに行くらしい。

結局、コニーアイランドでアイビーを見つけたものの、呼び込みのためにベリーダンスのダンサーを店外に連れだしていたオーナーと踊り子たちは風紀紊乱で警官に逮捕されそうになる。そこに無理矢理全員で割って入ってごちゃごちゃやって、もう帰船の時間でばいばい、また会えるよね、で入れ替わりに他の水兵がニューヨークニューヨークと歌いながら出てきておしまい。


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