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日々の破片

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2015-10-09

_ コンテナ物語を読んだ

アマゾンで安売りしていたので以前から興味をひかれていたコンテナ物語を買って読んだ。

結構時間がかかって通勤時で1週間ちょっと。

これは想像を超えたおもしろさだった。

まず、扱われる項目がえらく多岐に渡る。

そうか、それが流通ということか、と目からうろこがばりばりと剥げ落ちるおもしろさ。知的興奮の嵐である。

1940年代(つまり太平洋戦争中)の海軍による船の徴用と、戦後の払い下げによる海運業における政府の影響。

1950~1960年代に強力だった政府(アメリカのことだ)の護送船団方式の規制(価格、調達、分野、労働などなど)。

1950年代から1960年代の港湾労働者の組合(これ読んで、事実としてのアメリカ共産党に初めてであった。もっとも組織力は小さいので言及されている程度)。

・おれの記憶では、沖仲仕という言葉は、百姓とか土方と同じで、港湾労働者への置き換え必須用語(要するに放送では使えない)なのだが、本書では普通に書きまくっていて違和感があった。NHKで朗読してみてくれないかな。そうすれば放送禁止用語かどうか明らかになるわけだ。

東海岸(対ヨーロッパ貿易)と西海岸(対アジア貿易)だけではなくパナマ運河を使った東からアジア、西からヨーロッパなどの路線。

マルコム・マクリーン(名前からしてマルコム・マクラーレンに似ていて山師っぽい)の圧倒的な反知性主義(本来の意味)による革命の数々。ジョブズやゲイツがいるからパソコン革命がおもしろいように、本書の場合はマルコム・マクリーンというどえらくぶっ飛んで個性的な運輸王がいるから、ますますおもしろい。規制と戦い、法の抜け道をかいくぐり、TOBのような手法を編み出し、企業を売ったり買ったりしながらどんどん上り詰めて行く。

マクリーンも閃きと勘の良いビジョナリーだが、彼のパンパシフィック社とその周辺には、天才技術者みたいなのが何人かいて、マクリーンのアイディアを聞いた数週間後には特殊なクレーンを作って来たり、コンテナを容易にクレーンから外す金具を考案したりするので、どんどん効率化されていくのが本書の最初の白眉だ。

最初、トラック野郎から身を起こし(1940年代)、コンテナに着目し、運送の未来へのビジョナリーとなり、海運会社を手にして、コンテナを回し始める。1960年代には大海運王となり、業界をリードしまくる。金策のために世界最初のTOBを行う、さらにはタバコ会社(レイノルズ)へ身売りする(が、経営権は持ったままなので、文字通り株を誰が持つか問題)ことで巨額の資金を回す。しかし、オイルショックの読み間違い(オイルを食うが高速な船を作りまくった)と、その後の原油価格の下落の読み間違い(異様にでかいが低速でオイルを節約できる船を作りまくった)でついに1980年代に倒産させてしまい、それまでしたことがない大量解雇を起こしてしまい、精神的に大打撃を受けてフェードアウトする。

しかし、海運業に関係する誰もが、現在の流通のあり方(海運コストが2桁下がる)を作ったのはマクリーンだと知っている。

2001年5月30日、マクリーンの葬儀の朝には世界中のコンテナ船が汽笛を吹鳴して弔意を表している。(位置 4771)

そこまでの歴史を知った身として、この箇所では魂が揺さぶられた。1960年代に沖仲仕もろとも捨てて来た海の男の心意気みたいなものは全然死んでないじゃん。

というわけで、港湾労働という仕事が消えて行く(政府による補助、企業による妥協などなどあり)様子もある。西海岸の組合の親分と企業側親分の間に芽生えたある種の友情(もちろん金銭の上に成り立つのだが、情があるところがヤクザの世界っぽい)と、そういうものがまったくない東海岸の組合の親分が妥協を重ねながらどう抱えた労働者たちを救済するかの交渉の数々の対比のおもしろさ。

結果的に、その日暮らしの沖仲仕が会社員化(日銭稼ぎで港の近くに暮らして釣をしたり仕事をしたり暴れたり飲んだりから、月給をもらって郊外の家に住んで電車で港に通勤する)し、それによって失われた文化や職業的な連帯(50年代の港湾労働組合の記述も実に興味深い)の破壊などの記録も興味深い。そうか、波止場はこうやって機械化されていったのか。

マクリーンが反知性主義ならば、アカデミズムからのアプローチを行ったマトソン海運の60年代も実に興味深い。マトソンは研究部門を作り、地球物理学者のウェルダンを招聘して徹底的にコンテナオペレーションを研究させる。どのサイズのコンテナが最も最適であるか、どの航路、どこでどう貨物を積むか、オペレーションリサーチが実業に到来したのだ。こちらも大成功する(が時期的な問題と利用可能な航路の制限で復路の集荷に難がある)。

マクリーンとマトソンの成功を見て、標準化団体(ANSIではないが)が動き出す。

そこの親分が異常な数字マニアでいかにも規格屋で、10ft、20ft、40ftというコンテナの規格以外を認めない。

ハイウェイを走るトラックの寸法やらから求めたマクリーンや、自社が扱う貨物とフォークリフトなどを利用した作業空間から求めたマトソンが大反対する。業界からの参画者は、・先行者死ね(だからやつらが規格外になるのはOK)・現実に動いている(し、ハイウェイや貨物列車のことを知り抜いて決めたものが一番)のを利用すべきの2つに分かれて、現実主義が勝利しそうになるのだが、結局潰されてしまう。

それに対してなすすべがないISO(大体ISOの規格屋からはメートル法ではない時点で少しもキリが良い数字ではないわけで、登場しないが同情する)。

だが、アメリカが輸出してもアジアからの帰りのコンテナが空では無駄だ。

そこに日本の高度経済成長が来た!(のか、コンテナが空で需要があるので経済成長したのか、さてどちらだ? 答えは両方だろう)日本から大量の電化製品がアメリカへなだれ込む(ということも本書の範囲)。

躍進するアジア。

建国間もなく不安定な基盤しかないシンガポールがコンテナ港を作ることで影響力を発揮し出す。

人件費は低いがコンテナ港が無いのでアフリカはアフリカのままだった。

寂れるロンドンとリバプール。川の上流にある港は消えて行く。さよならサンフランシスコ。さよならブルックリン。

コンテナによって、グローバリゼーションが可能となった。

原料と半加工製品と組み立て工場と消費地はすべて流通によって結合される。グローバルサプライチェーンの登場である。

その大きなヒントとなったのはトヨタのジャストインタイム方式だ。

コンテナ物語(マルク レビンソン/村井 章子)

と、1950年代以降のあらゆる経済や政治や文化を国際的に巻き込むえらくスケールが大きな物語だった。

内容の密度の濃さにはとにかく圧倒されっぱなしだった(にもかかわらず、ここぞという人間については人文的な描写がされるので退屈もできない仕組みだ)。

満足した。

追記:読了まで1週間以上(大体8時間くらいか?)かかったのに、アマゾンのKindle版のページには、「紙の本の長さ: 183 ページ」と書いてあって、変だなぁと感じたが、実際の本のページを見たら448ページと書いてある。そりゃ時間がかかるはずだ。


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