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日々の破片

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2012-11-02

_ メトライブビューイング観に行った

メトライブビューイングは、ライブと言っても生中継ではなく、生舞台の映像化で、NHKの芸術劇場とかとそう変わらない。(と書いてしみじみと思うのだが、やはり日本は映像については圧倒的な先進国なのは間違いない。NHK、BBC(ロイヤルオペラ)、ヨーロッパのいろいろ(ザルツブルク、ルツェルン、ウィーン、パリ、このあたりはそれらの国の放送局がやっていると思う)、そしてメトと比較すると、NHKの撮り方のうまさは抜群で、舞台の全容と個々のソリストの動きが実に的確でしつこくなく、ある特定時点のソロを強調し過ぎて全体を見失う(木を見て森を見せない映像)とかが全くない。NHK最高だなぁ)

ただ、媒体がテレビではなく映画館に対して配信するところが異なる(たぶん、契約によってはテレビでも流すのだと思うけど)。

また、ライブビューイング化された作品はDVDなどで販売もしている。

メトのDVDをいくつか持っていて、たとえばドンパスクアーレだと、幕間にいかにもアメリカの下世話なおばさん(ソープオペラのイメージ)が「はーい、ルネフレミングよーん、今日はネトレプコちゃんの様子を見ちゃおうか!」とかやってきたりして、なんじゃこりゃでもあり、楽しくもあり(まあインタビューとか普通におもしろい)、あるいはカメラワークが異様で、オーケストラピットの上をうごめきながら指揮者に近寄りぐるっと回って独奏パートの上からのぞきこみながら顔をアップしてまたぐるっと旋回しながら指揮者へ近づく(なんとなく胃カメラとかこういう動きをするんだろうなぁとか思う)。

Donizetti: Don Pasquale [DVD] [Import](Anna Netrebko)

(先日、新国立劇場でドンジョヴァンニを歌ったクヴィエチェンがいい加減な医者(お兄さん)役で大活躍したり、ほとんど一人で歩けなくなっているレヴァインが心優しきジャバザハットのような姿で椅子に半分ずり落ちたような腰掛けかたをしながら終始にこにこ指揮をしていて、実に良い感じだ)

ただ、DVDで観るのと映画館で観るのは異なるだろうと、愛の妙薬を子供が観たがったというのもあって、2012年シーズンの最初の愛の妙薬を観に、新宿へ行ったのだった。

実際には、その前に3枚つづりの前売りかっておいて、火曜だか水曜だかに座席指定券に取り換えてから行った。

で、最初にとにかく(手元のDVDと違って)目立ったのが、ノイバウアー家財団とかいうのが支えているというアナウンスで、ほーノイバウアーさんのおかげですか、と刷り込まれた。

ライブなので客席を最初は映すのだが、いずこも同じく70代以上の客ばかりだ。

ネモリーノはポレンザーニというザルツブルクのドンジョヴァンニでドンナアンナの婚約者の役とか、上記DVDのドンパスクアーレの無能な甥とかで馴染みがあるテノール。

このテノールは悪くはないのだが、そのちょうど前に買って観た眉毛のネモリーノがあまりに良かったので(実はロドルフォとか聴いて今いち汚いなぁとか思っていたのだが、ネモリーノは素晴らしかった)、それと比較するとどうにも物足りない。

それに対してネトレプコは妙な帽子(演出家によれば権力の象徴として被せたらしい)で実に堂々たるものだ。うまいなぁ。

ベルコーレはクヴィエチェンでドンジョヴァンニもそうだったが色男がさまになる男でこれも良い(ビリャゾンがネモリーノのDVDのベルコーレはヌッチでおいおっさんあっち行けっぽい感じがしていまいちなのだ)。

と、カメラワークがうるせぇなぁとか、なんでそっちを映しているんだとかいろいろあるが、歌手が良いしオーケストラも良いのであっという間に一幕が終わる。

で、幕間になると、ルネフレミングではなく、デボラヴォイト(考えたらこの人もアメリカ人っぽいから、インタビュアは英語が母言語の人間を選ぶのかも知れない)が「はーいデボラよーん」とか言いながら出てきて、舞台の裾のほうで待っていると、まずクヴェイツェンがやってきて、「おいらは用無しだろ、彼女は後から来るよ」とか言いながら去っていき、ネトレプコがやってきてガールズトーク。

いやまあ、愛の妙薬だのドンパスクアーレだの軽い演目だから、この構成でも良いけど、余韻もへったくれもありゃしないから、1幕が深刻であったり劇的に幕切れるやつ(プッチーニはどれもそうだ)とか、大悲劇だったりすると、相当うるさいんじゃないかなぁとか思う。

で、ガールズトークが終わると、デボラが(ちょっと記憶が曖昧で、ふつうのキャスターになったかも)メトを支えているのはノイバウアーさんだけど、あそこだけじゃ足りないのよ。今度ライブビューイングは(忘れた)の3だか4か国も配信対象になったの。すてきじゃない? でも、配信するたびに赤字が垂れ流しなの。ひどいと思わない? そこで、あなたも、ばんばん寄付してちょうだい! と、寄付のお願いになる。

そういえば、新国立劇場も10万円寄付しろという紙を今日配ってたな。メトに寄付するなら新国立劇場に寄付するが、とりあえずは客として金を出すところまでだなぁ。

で、寄付のお願いが終わると、予告編大会となる。

サイモンリーンリーサイドという人とイザベルレナードという人が出てきて、トーマスアデスのテンペストという作品の広告(彼らが主演なのだ)をしたりして、これがめっぽう面白そうなのでたぶん観に行くだろうとか。

その他の演目についても次々と紹介していくので、これはおーおもしろそーとか、これは行こうとか、こういう曲なのかとか、こういう演出をするのかと、観てしまうわけだが、既に愛の妙薬の1幕の余韻はどこにも無い。

これ、初見の楽劇で一所懸命にライトモティーフを覚えたりしても(ドニゼッティだからそんなものはないけど、それなりに印象的なフレーズとかは覚えるわけだ)、完全にすっ飛んでしまうだろ。というわけで、非常に印象が悪い。おれが記憶力が悪いのかも知れないが、別の種類の音を聴かされると音色込みで覚えるからわからなくなってしまうのだった(繰り返し聴けばもちろん覚えられるけど、1回のみだとそんなものなのだ)。

さらに演出家に工夫どころを聞いたり、小道具係とか、舞台係とか、おもしろいんだけど、もう舞台のことは全部忘れてしまったよ。

で、10分間休憩とスクリーンに映ったので外に出る。

しかし後で子供に聞いたら、別にその間もいろいろ(料理係の人の話とか)やっていたらしい。もしかすると、幕間になったら、休憩とか表示されなくても外に出るのが正解かも知れないが、オペラパレスと異なりシネコンの外に出ても休めるところがあるわけではないから意味ないか。

というわけで、時間分とにかく内容を詰め込もうとしているので、退屈はしないし、錚々たる歌手が出てくるし、悪いものではない。

価格は3500円くらいするので普通の映画の倍だが、生のオペラは国内の変な席でも7000円(頑張れば4000円くらいの席もあるけど)することを考えれば安いものだ。

演目にもよるが、また行こうかなという気には十分になる(ただ幕間が落ち着かないのが気になる。実況中継ではないのだから、短縮すれば良いんじゃないかと思うのだが、そうしないところから考えると、結局、予告編と寄付のお願いを観客が逃げられない時点で流すという意思なのだろう)。

特に、舞台の細かな動きは観客の目線とは異なる異常な位置から撮影したりするので演出の細かい意図まで(同時進行で他の位置で何かしていない限り)良くわかる。その点は実に良い。また、映像の質も高い(音は5.1だというけどそれはあまり関係ないような気がするが、もちろん、生で聴くより遥かに均質に良い音だろうとは思う。実際の劇場では本当に場所によって音が異なるので外れるとひどいものだ。NHKホールの2階脇の席の奥とか音が入ってこない上に入った音が妙にこもって聴こえたりするし、その反面、上野の2階あたりの脇の席は実に良く響いて素晴らしい(逆に1階奥はひどい)、いずれにしても新国立劇場は4階ですら良いのだが、今度は舞台の細かな動きは追えない)。


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