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日々の破片

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2011-06-19

_ ドンカルロ

あまりにもメトのドンカルロがおもしろかったので、ロイヤルのDVDを買って、観た。

ヴェルディ 歌劇《ドン・カルロ》英国ロイヤル・オペラ [DVD](ルイス・リマ)

(今のDVDって1枚に3時間25分も収まるんだな)

序幕:最初の森の民(?)による背景説明のシーンが無く、いきなりエリザベートと小姓の会話から始まる。

映像はいかにも古ぼけている(衣装まで色褪せてみえる)が、さすがにリマもコトルバスもうまい。(が、さらにエボラ公女のバリオーニという歌手が実に良い)

4幕の地下牢の舞台美術はおもしろい。ぱっと見、机、ベッド、台所完備に見える(が、もちろん窓はない)。ロドリーゴのザンカローニという人が背が高くていかにもまじめそうな忠臣かつ忠友らしく振る舞っているだけに、ドンカルロの残念な行動が強調されてしまう演出。5幕最後は亡霊に引きずられてドンカルロが退場する強烈な演出だった。

2幕は実に良い。ドンカルロとロドリーゴの二重唱はオペラを聴く喜びでいっぱい。中庭に入ると女官が刺繍をしたりヴェールを作ったりしている。閑そうだ。リュートは首が異様に長くておもしろい。というか、舞台を観ているときは良く歌詞が読めなかったのでわからなかったが、ヴェールの歌って、実に象徴的なのだな(ヴェールを被った女性が美しいのでサルタンが口説くと奥方だったという内容なのだが、その後、エボラ公女とドンカルロは逆のことを行ってしまうわけだ)。で、復讐してやると、良いこと思いついたと、死にたいの3重唱がまた良い。

3幕はカソリックの狂信性が見えない演出。むしろフィリッポ2世が(カボチャパンツを別とすれば)かっこ良すぎる(自分で剣を抜いて応戦とか、どこの始皇帝)。

確かに、歌手はいずれも素晴らしいんじゃなかろうか。これで映像がもっと鮮明なら良いのにね。

(このDVDはヴィスコンティの演出を元にしていると読める書き方をしているが、ライナーを読むとそれは完全なミスリードらしい。その点は悪質だと思う(が、良く宣伝文を読むと、プロダクションだけというのはわかるように書いてあってなんだかなぁという感じはする)。ヴィスコンティが演出した時に作った舞台美術や衣装を利用した演出というだけ。でも内容が良いからみんな許しているんだろうな)

(最初、byflowに書いたけど、良く考えたら日記に残しておかないと、おれが後で読み返せないことに気付いたので転記)

リマもリーヨンフンも小柄で確かに当時14歳、中二病まっさかりのドン・カルロという雰囲気を漂わせているわけだが(おそらく、ロドリーゴは17歳、少しばかり社会を見る目も養われ、責任感というものを理解して行動できるようになったところ(だが、心性は正義漢だということを別とすればチンピラっぽいと言えなくもない)、エリザベータは15歳でドンカルロよりは自覚的だし蝶々夫人よりは遙かに高度な教育を受けているようだが、エボラ公女は25歳くらい(この演出だとエリザベータに憧れていて実は大切に感じているというのが良くわかる)、フィリッポ2世は34歳、まさに農業国のスペインの重要な商業拠点フランドルをどう支配するかが国家存亡の問題と理解しまくっているところ)、ではこれがカウフマンだったらどうだったのだろう? というのは興味ある。

それから字幕で歌詞を眺めていて納得したのだが、2幕でロドリーゴがフィリッポに忠誠を誓うところでは、その直前にフィリッポがまずロドリーゴの考えを最後まで聴いてやった上で否定し(無骨者の情のみの考えだからだが、歌詞は壮大で美しい)、それよりおれの悩みを聴けと自分の弱みをさらけ出し、最後におまえは男の中の男(だから、おれの悩みを知ったからといってそれを吹聴して回るようなことは無いと信じているというニュアンスを含ませつつ)、おれのために尽くしてくれ、と口説くところは、うまいものだ。春秋戦国でも死を賭して忠誠を誓う武勇型の家臣というのは主君から同じような口説かれ方をしているわけで、洋の東西、古今を問わず、主君からの信あっての忠ということだろう。(が、そのようにして忠臣のおかげで危機を乗り越えた主君は弱みを知られていることが理由となって、粛正したりするわけだ)


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